『心臓を貫かれて 上』を折る
自ら銃殺刑を求めた殺人犯の実弟が、血の絆、傷つけられた子ども時代、家族の秘密をたどりつつ、魂の再生を求めた鮮烈な問題作

心臓を貫かれて 上
文藝春秋
本の感想
『心臓を貫かれて 上』は、殺人犯の実弟であるマイケル・ギルモアが、兄の犯罪とその後の処刑、そして家族の秘密をたどりながら、自らの魂の再生を求めたノンフィクション作品だ。
血の絆という重いテーマを扱いながらも、著者の冷静で詩的な筆致が印象的。兄の犯罪行為を正当化することなく、しかし家族としての愛も否定せず、複雑な感情を率直に綴っている。
特に印象深いのは、傷つけられた子ども時代の描写だ。家族の秘密が明らかになる過程で、過去の出来事が新たな意味を持って浮かび上がってくる。読者は著者と共に、真実を探求する旅路を辿ることになる。
村上春樹の翻訳も、この重厚な内容を日本語として自然に表現しており、読み手を惹きつける。犯罪と家族、愛と憎しみ、過去と現在が交錯する、心に深く響く作品だ。