『BUTTER』を折る
実在の事件を下敷きに「決して若くも美しくもない彼女がなぜ男を惹きつけるのか」という世間の好奇を軸に描かれる。記者の里佳は、留置場で出会った梶井真奈子の言葉や料理に翻弄され、価値観を揺さぶられていく。食の濃密な描写も魅力のひとつとなっている。
『Origami Odyssey』Peter Engel
BUTTER
新潮社
本の感想
“文句なく面白い。料理へのこだわりが凄い。”
というAmazonのレビューで買ってみた。
『BUTTER』は、東京拘置所に拘束されている女囚と面会を続ける女性記者の物語だ。女囚が語るバターを使った料理。そのこだわりに導かれるように、編集者自身も料理を作り始め、次第に価値観を揺さぶられていく。
拘置所という閉鎖的な空間と、バターの香りや味が持つ温かさの対比が印象的だ。女囚の心の奥に眠る記憶や感情が、バターを使った料理を通じて少しずつ解き放たれていく様子が美しく描かれている。
印象的なのは、脂や甘さの濃厚な香りが漂う食の描写と、犯罪やジェンダー問題といった重いテーマが同じ地平で絡み合う点だ。バター醤油ご飯の誘惑から、高級バター菓子の濃密な味わいまで、その味や香り、食感までが鮮明に伝わってくる。食欲を刺激しながらも、人間の本質に迫る問いを突きつけてくる。エンタメとしても文学としても、満足度の高い一冊だった。